2015年12月7日月曜日

てんかん:精神科医と神経内科医

さる12月5日(土)グランヴィアホテル大阪での「てんかん治療を考える会」にて、「症例から診るてんかん」という講演をさせていただきました。聴衆は精神科の先生方を中心に約70名の方々が参加されており盛況でした。国立精神神経センター研究所病院の渡辺裕貴先生のご講演もとても教育的な内容で、参加された先生方からもたくさんの質問が寄せられていました。

昔はてんかんの診療といえばほぼ精神科の先生が一手に行い、そこに小児科の先生が参加している、という時代が日本で長くありました。そもそも昔の日本には神経内科も脳神経外科もなかったのです。その後脳神経外科が精神科から独立し、さらに神経内科が精神科とは独立した診療科になったのは、日本では1960 年代ぐらいからだと考えられます。地方によっては神経内科が精神科と別れて独立した大学講座になったのは1980年代というところもあります。それ以前は成人のてんかん患者さんはすべて精神科に通っておられたのです。

つまり昔はおとなのてんかんの専門家=精神科医だったのですね。昔の精神科の先生はNervenarzt(神経科医)として、マルチプレーヤーであったということも言えると思います。

しかし疾患について新たな知見も増え、現実的には脳卒中など、もともと日本でも循環器内科の先生も扱っていた疾患なども神経疾患として扱う場面もあり、精神科医と神経内科医は(脳外科医ももちろん)現在では完全に違う世界に住んでいるかのようです。そんななかで、てんかんは広く神経の病気であることが知られるようになり、患者さんも精神科より、神経内科を訪れることが圧倒的に多くなりました。

そうなると、精神科の先生がてんかんの方を診る機会は圧倒的に少なくなります。少なくなると興味を持つ先生が減るのもしかたないことで、最近では「精神科医のてんかん離れ」問題が言われるようになっています。

これは何が問題かといいますと、精神科を受診するてんかん患者さんは確かに減りました。減りましたが、ゼロには絶対になりません。

たとえばてんかんの方は、たとえばうつ症状の合併が多いことはよく知られています(報告により様々ですが、2-4割といった報告が多いように思います)これはてんかんそのものが影響する場合もありますし、抗てんかん薬の副作用でそうなることもあります。社会的にストレスを抱えやすい状況になることも抑うつ状態を引き起こしやすくなります。また時に統合失調症と区別がつきにくいような幻覚妄想状態をみる方もあります(これも抗てんかん薬の副作用であることがよくありますので注意を要します)
てんかんの患者さんは「脳とこころ」という、非常に難しいテーマを我々に対して投げかけてくれる存在です。

では実際にこうした問題が起こった場合、神経内科の先生に診てもらっている患者さんがどうなるかと言いますと、

患者さん
「先生、気分が良くなくて、不安でいたたまれなくて、仕事も手につかなくて・・・・」
神経内科の先生
「(うつ状態だなあ)そうですか、では精神科に良い先生がいますよ。一度受診されてはいかがですか?てんかん発作はありませんし、そちらの治療はこっちで続ければいいですから」

患者さん:
「神経内科の先生からうつ状態だって言われて、ご紹介頂いたのですが・・・」
精神科の先生
「(てんかんの患者さんかあ、最近あんまり診てないなあ)そうですか、ではてんかんの治療は神経内科の先生におまかせして、こちらは主に精神的な治療をやっていきましょう。とりあえず、うつ病のお薬が効果があればいいですねえ」

というように、精神科の先生がてんかんの方を全く診なくなる、という時代は絶対に来ないことがお分かりいただけるかと思います。問題は、この患者さんのうつ状態が、実は抗てんかん薬の副作用であった、といった場合です。根本的にはこれは抗てんかん薬を調整しないと、いくらうつ病の薬を飲んでも良くなりません。精神科医と神経内科医は、お互いの足りないところを補い合うことができている、とは言いにくいと思うのです。お互いの知識を共有する、かつてのNervenarztが今こそ必要だと感じます(もちろん、上の会話のようなことがいつも起こるわけではありませんが・・・)

若手の神経内科の先生の研修に長期の精神科での研修を、精神科の先生の研修に神経内科を加えることもよいかもしれません。「脳とこころ」について思索する期間は精神科医、神経内科医のお互いにとって、決して無駄ではないと思うのです。

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