2016年7月21日木曜日

「高齢者てんかん」の講演をして思うこと

さる7月16日、大阪てんかん診療ネットワーク研究会で「高齢者てんかん」についてのお話をさせていただきました。


以前にもこのブログでご紹介したことがありますが、高齢者のてんかんは近年認知症との鑑別など、さまざまな点で注目されています。


現在日本では人口の4人に1人が65歳以上のいわゆる高齢者になります。2035年にはこれが3人に1人になることが予想されています。人口は減少が始まっており、就業者人口に占める高齢者の割合もどんどん高まると考えられます。年金支給開始年齢が現行よりさらに先送りされる可能性も示唆されており、高齢になった方が働く必要性もより高まっています。


一方、高齢になってからはじめててんかんを発病する方がとても多いことは以前にご紹介したとおりです。発症率からみると、70歳を過ぎると発症率は小児期よりも高くなります。よくてんかんは人口の1%ぐらいの有病率があると言われていますが、高齢者に限って言えば、この割合はさらに高くなります。この患者さんたちを適切に診断・治療し、通常の社会生活が送れるようにすることは、上記の高齢化がすすむ社会の中では、より重要になっていくと考えられます。


高齢者のてんかんでよく言われるのは、「診断も治療も難しい」ということです。これはある面では正しく、ある面では間違っています。


まず診断が難しいのは事実だと思います。高齢者発症のてんかんは発作の頻度が少ない事が多く、またけいれんなどの目立つ症状が少なく、少しボーっとするとか、様子がおかしいというぐらいにしか見えない症状が多い事が知られています。そのため容易に見逃されますし、よく言われることですが、認知症と間違って診断されたりします。また高齢者のてんかんは長時間発作が続きやすいという特徴もあり、これがさらに診断を難しくします。少しボーっとしたり上手くしゃべれないといったエピソードが長時間にわたって消長を繰り返しながら続いたりするので、あまり「発作」的な印象を持たれにくくなります。ですので、昔からこのような症状が頻繁にあるにもかかわらず、てんかんの診断がついたのはけいれんが起こってから、というのはよくある状況です。


一方、治療については、高齢発症のてんかんはとても治療がよく効く事が知られています。一般的な抗てんかん薬の用量の数分の一、といった量でも発作がぴたっと止まってしまいます。これは小児や通常の成人のてんかんとは全く違います。いわゆる難治てんかんは脳出血や脳挫傷の後遺症であるとかいう場合を除けばほとんどおられません。この点だけみれば、高齢者のてんかん治療は困難ではありません。


ふつうはてんかんの治療というとお薬を十分に使って発作を起こらないようにすることが重要ですが、高齢者に限って言えば、より少ない薬で発作を抑えることが可能です。これは副作用の点からとても重要でして、高齢者は眠気やふらつきなどの抗てんかん薬の副作用がとても出やすいです。その点からも少量で発作が抑えられる薬を探すことが大切になります。あまりこの点が意識されずに、通常のてんかん治療のように抗てんかん薬が処方され、ふらふらになってしまった、というお話はよく聞きます。テグレトールなら100mgとか、50mgを寝る前に1回とかでも止まる人もいるので、決して通常の開始用量で治療しないようにしたほうがいいですね。


高齢の方は服用している薬剤が多いとか、腎機能や肝機能が低下している事が多いので治療が難しい、といったこともよく言われますが、抗てんかん薬の選択や、ごく少量から治療するという基本さえ外さなければ、難治てんかんで治療に難渋するケースなどに比べれば、困難を感じる事はむしろ少ないですね。


つまり、治療にたどり着くことさえできればなんとかなることが多いので、あとは診断です。少し様子がおかしいな・・・というぐらいのことがとても大事です。高齢発症のてんかんはよくあるものですから、おかしいなと思ったらお近くの神経内科の先生などに相談してみましょう。

2016年7月15日金曜日

夏季休診のお知らせ

小出内科神経科は8月10日(水)~8月15日(月)、夏季休診とさせていただきます。また副院長、小出泰道医師の外来は7月26日(火)~7月30日(土)は休診となります(院長外来は通常通りです)ご相談や急ぎの書類のご依頼等ありましたら、早めにご連絡ください。

2016年7月4日月曜日

てんかん情報サイト「てんかんabc」が公開されました!

皆さんは自分のてんかんについて、どこから情報を入手していますか?

インターネットの検索サイトで「てんかん」を入力すれば、そこにはびっくりするほどの情報が存在します。しかしその中身が自分にとって常に関係があるものとは限りませんので、色々と調べてはみたが自分が知りたいことは分からなかった、ということもあります。

またその情報が正しいかどうかは、情報が載っているサイトの信頼性も重要です。インターネット上の情報には玉石が混交しており、その中から正しい情報を集めるにはそれなりのリテラシーが要求されます。

実際に現場で患者さんからお話をおうかがいしていますと、ネットから得た不正確な情報に踊らされていたり、また本来は自分の病状とはあまり関係のない情報を不適切に取り入れていたりすることは珍しくありません。その結果、なかなか正しい治療に結びつかないこともあります。

このような状況があることを知り、患者さんが求める情報にできるだけたどり着けるようなてんかん情報サイトを作りたい!というUCB社の担当者さんの熱意からできたのが「てんかんabc」です。2016年7月4日本日から一般公開されました。小出も監修者として参加させていただきました。

このサイトの特徴は、患者さんあるいは家族の方、年齢や性別、といった閲覧している方の状況に合わせた情報を提供しているところです。また、コンテンツを閲覧した後で理解が正しくなされているかどうかをチェックするためのクイズがあります。このクイズにチャレンジするだけで、これまでてんかんについて学んだことがない方にはかなりの情報が得られるでしょう。

また担当者さんの願いである「患者さんと担当の先生がてんかんについてもっとコミュニケーションが取れるようになってほしい」という点については、患者さんが次回の受診時に担当の先生に質問や相談をするためのカードなども用意されています。

「てんかんabc」はこうした関係者の熱意が込められた情報サイトです。ぜひご覧ください。

てんかんabc
https://www.tenkan-abc.jp/