2017年11月13日月曜日

てんかんを公表している著名人⑮ Jay Bothroyd,(football player, 1982~)

「てんかんは、ありふれた、1人/100人の病気です」

我々は講演等でよくそのようにご紹介をします。実際に色々な研究から日本でも、世界どの国でもあまりこの有病率には変わりはないと言われており、てんかんをお持ちの患者さんはとてもたくさんおられます。皆さんの周りにも。

「でも患者さんに会ったことがないし、てんかん発作を起こしている人なんて見たことがありません」

きちんと治療を受けてさえいれば、60-70%の患者さんは発作が消失します。薬を飲んでいる以外はほかの方と全く変わるところがない、という方が多いのです。だから発作を一般の方が目撃する機会はほとんどありません。私も病院以外でてんかん発作をみたことはたぶんないと思います。また、てんかん発作と言っても一般の方が想像するような「泡を吹いて倒れる」けいれんはてんかん発作のごく一部にしかすぎませんので、「一瞬手がぴくっと動く」とか「一瞬じっとしているだけ」とかそんな発作は見逃されており、発作があってもそれとは気づかれないこともよくあります。

ただ発作がある人はたくさんいるのに「会ったことがない」のはなぜでしょう?それはてんかんがあることを「言い出せない」ことが大きな理由です。

てんかん、という単語はただの病名でありながら、色々な複雑なイメージを持っています。偏見や差別を恐れ、自分がそうだと口に出せない、そういう点で「てんかんになっちゃった」は同じ慢性的な疾患でも「高脂血症になっちゃった」とは言い出すハードルの高さが全く違うのです。

本日ご紹介するのはサッカーJリーグ、コンサドーレ札幌で活躍するジェイ選手です。ネットのニュースでご覧になった方も多いかもしれませんが、先日11月に練習中に倒れ、救急搬送されたことが報告されました。その後原因は彼がずっと治療を続けているてんかんであることが発表されました(薬の飲み忘れで発作が出てしまったことも)。社長は入団時に知らされていたようですが、チームメートは知らなかったそうです。

「若い人や他のアスリートでもてんかんを持っている人はいる。そういう人たちを助けたい」「てんかんを持っていても素晴らしい人生を送れることをみんなに知ってほしい。自分を信じて普通の人生を送ってほしい」「隠すことでも恥ずかしい事でも仕事を邪魔するものでもない」

彼が公表に至った経緯を考えると、彼にも様々な葛藤があったのではないかと想像します。しかし彼がてんかんを公表すると決め、患者さんたちを勇気づけたいというコメントを出してくれたことは日々患者さんに接する私にはとてもうれしいニュースでした。彼の今後の活躍に期待したいと思います。

ジェイの同じてんかんを持つ方へのメッセージ(パープルデー大阪公式YouTubeチャンネル)





2017年11月10日金曜日

「プライマリ・ケアのための新規抗てんかん薬マスターブック」改訂第2版

2012年に発売され好評を博した「プライマリ・ケアのための新規抗てんかん薬マスターブック」の改訂第2版が先日出版されました。初版につづき小出も分担執筆させていただいております。新しい薬が次々と発売される中、その使い方の経験も蓄積されてきていますので、皆様のお役に立てばと思います。


2017年11月7日火曜日

第51回日本てんかん学会学術集会が終わりました

先週末、第51回日本てんかん学会学術集会(京都国際会館)が終わりました。小出は市民公開講座で「おとなのてんかん」というお話をさせていただきました。

日本のてんかん学の現在地が色々な意味でよくわかる学会だったように思いますが、個人的に一番印象的だったのは、国際抗てんかん連盟会長のWiebe先生が話された、AIなどのMachine Learningが今後のてんかん医療に何をもたらすか?という話でした。AIができることは脳波の自動判読など従来てんかんの世界で我々が考えてきた「機械がする領域」を大きく超え、問診の段階からAIによる判定アルゴリズムが有用になってくる可能性(もはやなっている?)が示唆されていました。Wiebe先生はアルゴリズムは我々の敵ではない、パートナーだ、といったお話もされていましたが、どこか空恐ろしい感じを受けました。我々の仕事も今後大きく変貌していくのでしょう。

今我々にできることは目の前の患者さんの「来し方」を理解し、「行く末」に何か良きものを付け加えることができるように頑張ることだけですね。その姿勢や感性だけが最後に我々に残された医療なのかもしれません。

感性と言えば、今年も開かれたアート展にはやはり色々な患者さんの来し方が表現されていましたね。今後もこの静岡の井上先生の想いがこもった企画が受け継がれていくことを願っています。アート展の図譜は当院待合にもありますので、受診の際はどうぞご覧ください。