2015年11月24日火曜日

てんかんと妊娠②「てんかんはこどもに遺伝しますか?」

このシリーズ、妊娠を考える女性のてんかん患者さんからの質問、という形式をとらせていただいていますが、第2回はてんかんと遺伝についてです。

てんかんの診断をすると、「うちの家系には、てんかんの人なんていないんですけど」といった患者さんやご家族からのご発言をよく耳にします。そもそも遺伝する病気、という前提でのお話ですね。本当にそうなのでしょうか?

まず、ここで何度か触れていますように、「てんかん」と一口に言ってもその中身は極めて多種多様で、様々なタイプや分類が存在しています。まずは患者さんのてんかん発作のタイプやその原因がなんなのか?といったことが重要です。

てんかんが何らかの後天的な原因(外傷、脳血管障害、脳腫瘍、脳炎/髄膜炎など)で発症した場合、これはどう考えても遺伝はない、ということはご理解頂けると思います。これらのてんかんは単に脳に何らかの傷が後天的についたことによって、脳が異常な電気的興奮を起こすようになり、てんかん発作が起こるようになった、ということになります。「獲得された形質は遺伝しない」という言葉が有名ですが、要するに「親が頑張って筋肉をつけても、子供が筋肉質で生まれはしない」というのと同じです。

ですのでそもそもてんかんと遺伝、といったことを考える機会があるとすれば、それはどちらかといえば多くが10代までに発症する、あきらかな原因がない、何らかの体質に起因するものと考えられるようなてんかんがその対象になります。

ここで大切な前提として、この「遺伝」という言葉が指すものを考えてみる必要があります。患者さんやご家族が言う「遺伝」というのは親→子、あるいは親族間でのてんかんの有無を指すことがほとんどだと思います。

ではこうした意味での「遺伝」はどのぐらいてんかんにあるのでしょうか?確かに一部のてんかんには「ある」といって良いケースもあります。たとえば進行性ミオクローヌスてんかんなど、ごく一部のてんかんではごく限られた遺伝子の変化がてんかんやその他の病状を発症させていることが知られています。こうした場合は、ある方にそうしたタイプのてんかんが発症すると、ほとんどの場合は親御さんなどにもまったく同様の症状がみられます。表現促進現象といって、世代が若くなるにつれて発症する時期が早まるタイプの病気もありますので、お子さんがすでに発症しているにもかかわらず、親御さんはまだ発症しておらず、将来発症する可能性がきわめて高い、と想像されるような場合もあります。また熱性けいれんが関連するようなてんかん「熱性けいれんプラス」なども親御さんとお子さんにどちらも熱性けいれんやてんかんが存在していることがありますね。

ただ、てんかんには極めて多種多様なタイプが存在しており、その中でこうしたてんかんはごく一部にしか過ぎません。てんかん全体で考えると、このような単純な遺伝形式をとるものは非常に珍しいのです。

現在多くのてんかんは、非常に多様な因子が背景にあって発症するものと考えられています。

ごくごく分かりやすく言えば「けいれんの起こりやすさ」「脳でおこった電気的な興奮を鎮める力の強弱」「刺激への過敏性」といった因子がもともとご両親のどちらかに、あるいはどちらにもあるわけです。これらが複雑に組み合わさることではじめててんかんは発症してきます。

ですので親御さんのどちらかにてんかんがあったとしても、お子さんは親御さん両者の特性を受け継いで誕生しますので、ほとんどの場合はてんかんをお持ちではありません。

一般的に25歳までのてんかんの発症率は1-2%ぐらいではないかと言われていますが、てんかんがある(ここには上記した、明らかに遺伝的背景が存在しえない後天的なてんかんも含まれますが)親御さんから生まれたお子さんの発症率はその3倍ぐらい、つまり6%ぐらいではないかと考えられています。ここには遺伝的背景がはっきりしている上記のようなてんかんの方も入っています。ですのでざっくりと言うと

「てんかんを持たない親御さんから生まれるお子さんの1-2%にもてんかんはあり、てんかんを持つ親御さんから生まれるお子さんの9割強はてんかんではない」

ということになります。6%ぐらい、という数字もあくまでも色々なてんかんや発作型を総じての数字ですので、個々の患者さんではもっと可能性が高かったり低かったりはします。しかし(上記のようなごくごく一部のてんかんを除けば)絶対に五分五分とか、100%とか、そうした話ではないのです。

これからさらに分子遺伝学的な研究が進めば、てんかんを発症させる複数の因子が明らかになってくるものと期待されますが、いずれにしても事実として、患者さんやご家族が心配する「親→子でてんかんが発症する」ということが比較的稀な事態であることには変わりはありません。

上記はあくまでも総論ですので、患者さん個人の、ご自身のてんかんはどうか?、ということについては担当の先生に聞いてみてください。ただ後天的な原因の方は気にされる必要はありませんし、そうでない方も「遺伝するかも・・・・」ということを過剰に心配して妊娠をあきらめる、といった必要はない、ということはご理解頂けるかと思います。

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