シリーズ第3回は、妊娠中のてんかん発作についてです。
まず基本的なこととして、妊娠前に発作ができるだけ起こらないように(かつ胎児への影響が最低限になるように)薬剤を調整しておくことが重要です。
では発作がどうなれば妊娠に適切かというと、はっきりした決まりはありませんが、全身けいれん(強直間代発作)は少なければ少ないほどいいことは間違いないと思います。
全身けいれんが起こりますと、どうしてもおなかに力が入りますので、早産や流産のリスクがまず高くなってしまいます。全身けいれんがあることが胎児にどのような影響があるかはまださまざまな議論がありますが、全身けいれんの回数が多い(文献によっては妊娠中に5回以上)場合、生まれる赤ちゃんの知能に影響する可能性があるとも言われています。
逆に言えば1-2回あったぐらいでは、流産や早産にかかわりさえしなければ大きな影響はないとも言えます。実際に当院に通院されている方でも、妊娠中に全身けいれんがあった方はいますが、特に問題なく出産され、お子さんも問題を認めていません。
ただ繰り返しになりますが、全身けいれんはないほうがいいことは間違いないので、できるだけ少なくなるように治療を行ってから妊娠に臨むほうがいいでしょう。妊娠中に上記したような回数で、頻繁にけいれん発作が起こることが予想されるような状況では、まだ妊娠に臨むのは難しいということになりますね。
「今はいいよ、でも、妊娠しちゃったら発作が増えたりしないかな・・・」とお考えの方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし妊娠前にてんかん発作のコントロールが良い方は、妊娠中も良いことが知られています。つまり妊娠をするだけでは発作が増えることは(絶対ではありませんが)あまりないということですね。ただ、例外もあります。
たとえば妊娠中に血液中の薬物濃度が低下するような薬剤を服用しておられる方は注意が必要です。妊娠はホルモンのバランスや肝臓での酵素の働きを変化させ、一部の抗てんかん薬の血中濃度を低下させることが知られています。抗てんかん薬の中でも、ラモトリギンはその影響が顕著にあります。また別の機会に書きますが、ラモトリギンは妊娠に関する安全性が高いというデータから最近はよく使用される薬剤です。その一方、このお薬は妊娠中に血中濃度が半分、影響が大きい方では1/3-1/4にまで濃度が低下し、発作が増えてしまうことがあります。ですので妊娠中には用量を増やして使用しなければならないこともあります。
こうした例外に注意しながら、妊娠中の発作を避けられるように患者さんと相談しながら治療をすすめていきます。
では、全身けいれん以外の発作はどうでしょうか?意識が曇る、体が一瞬びくっとする、自覚症状のみ、といったタイプの発作をお持ちの方もたくさんいらっしゃいますが、こうした方の発作は基本的に妊娠に影響することはありません。とにかく最低限全身けいれんだけはないようにする、というのが発作に関する基本的なスタンスではないかと思っています。
ちなみに今でも「出産の時にけいれんが起こるといけないから、帝王切開になると思います」といった説明を聞いている患者さんもいますが、これは誤りで、ほとんどの場合は通常の分娩が可能です。出産時や分娩中にけいれん発作が起こる可能性は高くはありませんが、なかには陣痛で眠れなくなり、けいれん発作が起こってしまったケースもありました。ただその場合でも発作が終わった後で普通の分娩をした方もおられますし、必ずしも帝王切開は必要ではありません。どうしても必要ならその時に産科の先生が判断されますので、最初から帝王切開を考える、というのは産科合併症が何かある場合でなければむしろ稀なことですね。
妊娠前にできるだけよい状態を作り出して妊娠に臨み、妊娠中も母体の変化への対応をとれば、発作は大きな問題にはならないことが多いということをご理解いただきたいと思います。
2016年1月8日金曜日
2016年1月2日土曜日
あけましておめでとうございます
新年あけましておめでとうございます。年始の大阪は今のところ良い天気が続いていますね。皆さまどんなお正月をお過ごしでしょうか?
小出内科神経科の診療は1月5日より開始させていただきます。年始の午前中は混雑が予想されます。患者さん方には時間に余裕をもって来院されるよう、よろしくお願い申し上げます。
小出内科神経科の診療は1月5日より開始させていただきます。年始の午前中は混雑が予想されます。患者さん方には時間に余裕をもって来院されるよう、よろしくお願い申し上げます。
2015年12月26日土曜日
2015年の診療を終えてのごあいさつ
本日12月26日午前をもちまして当院の2015年の診療を終了させていただきました。新年は1月5日(火)より診療を開始させていただきます。
思えば今年もあっという間でした。てんかん外来の新規の患者さんはだいたい15名前後/月ぐらいで推移していますが、継続治療させていただく方が増えるに従い、新患の方の予約が少し入りにくくなってきております。新規の方はどうしてもしっかりお話をおうかがいする必要がありますので、ゆっくりと時間をとることができる日時でのご予約をお願いせざるを得ません。新規のご予約の方にはご迷惑をおかけしておりますが、どうぞご理解くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
来年も一人でも多くの患者さんに「小出内科神経科を受診してよかった」と思っていただけるように、スタッフ一同頑張りたいと思います。来年もよろしくお願い申し上げます。それでは皆様、よいお年をお迎えください。
思えば今年もあっという間でした。てんかん外来の新規の患者さんはだいたい15名前後/月ぐらいで推移していますが、継続治療させていただく方が増えるに従い、新患の方の予約が少し入りにくくなってきております。新規の方はどうしてもしっかりお話をおうかがいする必要がありますので、ゆっくりと時間をとることができる日時でのご予約をお願いせざるを得ません。新規のご予約の方にはご迷惑をおかけしておりますが、どうぞご理解くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。
来年も一人でも多くの患者さんに「小出内科神経科を受診してよかった」と思っていただけるように、スタッフ一同頑張りたいと思います。来年もよろしくお願い申し上げます。それでは皆様、よいお年をお迎えください。
2015年12月18日金曜日
当院かいわい:あべのハルカス
大阪もやっと冬らしく寒い日が続くようになってきましたね。
日本一高い商業ビル(地上60階建て、300m)、あべのハルカスが抜けるような青空に映えますね。上からの眺望は本当に素晴らしいのですが、大阪のシンボル通天閣がマッチ棒みたいに見えるのがちょっと寂しい感じがします(笑)
日本一高い商業ビル(地上60階建て、300m)、あべのハルカスが抜けるような青空に映えますね。上からの眺望は本当に素晴らしいのですが、大阪のシンボル通天閣がマッチ棒みたいに見えるのがちょっと寂しい感じがします(笑)
2015年12月9日水曜日
てんかんを公表している著名人⑪ Keith Richards(Rolling Stones, 1943~)
てんかんの原因は非常にさまざまです。脳が部分的な、あるいは全体的な一過性の電気的過剰興奮を起こすのがてんかん発作の原因ですが、この過剰な興奮が起こりやすくなる原因がいろいろある、ということですね。体質的な背景が考えられる方もいますし、脳梗塞や出血などの脳血管障害、頭部外傷、脳炎や髄膜炎などの
炎症、脳腫瘍など、脳に何らかの損傷が加わることによって機能の問題が生じ、てんかん発作が起きるようになることもあります。
「脳があれば誰でもてんかんになりうる」ということも、まさに言われるとおりかと思います。
Rolling Stonesのギタリストとして伝説的な存在で、かつ現在も精力的に活動を続けるKeith Richardsは、2006年に木の枝から飛び降りようとして足を滑らせ、木の幹で頭を打ち、後に頭蓋内出血を認めたため手術を受けています。この後彼は2度にわたっててんかん発作を経験し、抗てんかん薬の服用を現在も続けているそうです。
記事によりますと、医師には術後6か月の安静を言い渡されたようですが、6週間で音楽活動に復帰してしまった、というエピソードが、らしいというかなんというか・・・
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-3299161/Keith-Richards-taking-anti-epileptic-drugs-having-prescribed-10-years-ago-following-Fiji-tree-accident.html
炎症、脳腫瘍など、脳に何らかの損傷が加わることによって機能の問題が生じ、てんかん発作が起きるようになることもあります。
「脳があれば誰でもてんかんになりうる」ということも、まさに言われるとおりかと思います。
Rolling Stonesのギタリストとして伝説的な存在で、かつ現在も精力的に活動を続けるKeith Richardsは、2006年に木の枝から飛び降りようとして足を滑らせ、木の幹で頭を打ち、後に頭蓋内出血を認めたため手術を受けています。この後彼は2度にわたっててんかん発作を経験し、抗てんかん薬の服用を現在も続けているそうです。
記事によりますと、医師には術後6か月の安静を言い渡されたようですが、6週間で音楽活動に復帰してしまった、というエピソードが、らしいというかなんというか・・・
http://www.dailymail.co.uk/femail/article-3299161/Keith-Richards-taking-anti-epileptic-drugs-having-prescribed-10-years-ago-following-Fiji-tree-accident.html
2015年12月7日月曜日
てんかん:精神科医と神経内科医
さる12月5日(土)グランヴィアホテル大阪での「てんかん治療を考える会」にて、「症例から診るてんかん」という講演をさせていただきました。聴衆は精神科の先生方を中心に約70名の方々が参加されており盛況でした。国立精神神経センター研究所病院の渡辺裕貴先生のご講演もとても教育的な内容で、参加された先生方からもたくさんの質問が寄せられていました。
昔はてんかんの診療といえばほぼ精神科の先生が一手に行い、そこに小児科の先生が参加している、という時代が日本で長くありました。そもそも昔の日本には神経内科も脳神経外科もなかったのです。その後脳神経外科が精神科から独立し、さらに神経内科が精神科とは独立した診療科になったのは、日本では1960 年代ぐらいからだと考えられます。地方によっては神経内科が精神科と別れて独立した大学講座になったのは1980年代というところもあります。それ以前は成人のてんかん患者さんはすべて精神科に通っておられたのです。
つまり昔はおとなのてんかんの専門家=精神科医だったのですね。昔の精神科の先生はNervenarzt(神経科医)として、マルチプレーヤーであったということも言えると思います。
しかし疾患について新たな知見も増え、現実的には脳卒中など、もともと日本でも循環器内科の先生も扱っていた疾患なども神経疾患として扱う場面もあり、精神科医と神経内科医は(脳外科医ももちろん)現在では完全に違う世界に住んでいるかのようです。そんななかで、てんかんは広く神経の病気であることが知られるようになり、患者さんも精神科より、神経内科を訪れることが圧倒的に多くなりました。
そうなると、精神科の先生がてんかんの方を診る機会は圧倒的に少なくなります。少なくなると興味を持つ先生が減るのもしかたないことで、最近では「精神科医のてんかん離れ」問題が言われるようになっています。
これは何が問題かといいますと、精神科を受診するてんかん患者さんは確かに減りました。減りましたが、ゼロには絶対になりません。
たとえばてんかんの方は、たとえばうつ症状の合併が多いことはよく知られています(報告により様々ですが、2-4割といった報告が多いように思います)これはてんかんそのものが影響する場合もありますし、抗てんかん薬の副作用でそうなることもあります。社会的にストレスを抱えやすい状況になることも抑うつ状態を引き起こしやすくなります。また時に統合失調症と区別がつきにくいような幻覚妄想状態をみる方もあります(これも抗てんかん薬の副作用であることがよくありますので注意を要します)
てんかんの患者さんは「脳とこころ」という、非常に難しいテーマを我々に対して投げかけてくれる存在です。
では実際にこうした問題が起こった場合、神経内科の先生に診てもらっている患者さんがどうなるかと言いますと、
患者さん
「先生、気分が良くなくて、不安でいたたまれなくて、仕事も手につかなくて・・・・」
神経内科の先生
「(うつ状態だなあ)そうですか、では精神科に良い先生がいますよ。一度受診されてはいかがですか?てんかん発作はありませんし、そちらの治療はこっちで続ければいいですから」
患者さん:
「神経内科の先生からうつ状態だって言われて、ご紹介頂いたのですが・・・」
精神科の先生
「(てんかんの患者さんかあ、最近あんまり診てないなあ)そうですか、ではてんかんの治療は神経内科の先生におまかせして、こちらは主に精神的な治療をやっていきましょう。とりあえず、うつ病のお薬が効果があればいいですねえ」
というように、精神科の先生がてんかんの方を全く診なくなる、という時代は絶対に来ないことがお分かりいただけるかと思います。問題は、この患者さんのうつ状態が、実は抗てんかん薬の副作用であった、といった場合です。根本的にはこれは抗てんかん薬を調整しないと、いくらうつ病の薬を飲んでも良くなりません。精神科医と神経内科医は、お互いの足りないところを補い合うことができている、とは言いにくいと思うのです。お互いの知識を共有する、かつてのNervenarztが今こそ必要だと感じます(もちろん、上の会話のようなことがいつも起こるわけではありませんが・・・)
若手の神経内科の先生の研修に長期の精神科での研修を、精神科の先生の研修に神経内科を加えることもよいかもしれません。「脳とこころ」について思索する期間は精神科医、神経内科医のお互いにとって、決して無駄ではないと思うのです。
昔はてんかんの診療といえばほぼ精神科の先生が一手に行い、そこに小児科の先生が参加している、という時代が日本で長くありました。そもそも昔の日本には神経内科も脳神経外科もなかったのです。その後脳神経外科が精神科から独立し、さらに神経内科が精神科とは独立した診療科になったのは、日本では1960 年代ぐらいからだと考えられます。地方によっては神経内科が精神科と別れて独立した大学講座になったのは1980年代というところもあります。それ以前は成人のてんかん患者さんはすべて精神科に通っておられたのです。
つまり昔はおとなのてんかんの専門家=精神科医だったのですね。昔の精神科の先生はNervenarzt(神経科医)として、マルチプレーヤーであったということも言えると思います。
しかし疾患について新たな知見も増え、現実的には脳卒中など、もともと日本でも循環器内科の先生も扱っていた疾患なども神経疾患として扱う場面もあり、精神科医と神経内科医は(脳外科医ももちろん)現在では完全に違う世界に住んでいるかのようです。そんななかで、てんかんは広く神経の病気であることが知られるようになり、患者さんも精神科より、神経内科を訪れることが圧倒的に多くなりました。
そうなると、精神科の先生がてんかんの方を診る機会は圧倒的に少なくなります。少なくなると興味を持つ先生が減るのもしかたないことで、最近では「精神科医のてんかん離れ」問題が言われるようになっています。
これは何が問題かといいますと、精神科を受診するてんかん患者さんは確かに減りました。減りましたが、ゼロには絶対になりません。
たとえばてんかんの方は、たとえばうつ症状の合併が多いことはよく知られています(報告により様々ですが、2-4割といった報告が多いように思います)これはてんかんそのものが影響する場合もありますし、抗てんかん薬の副作用でそうなることもあります。社会的にストレスを抱えやすい状況になることも抑うつ状態を引き起こしやすくなります。また時に統合失調症と区別がつきにくいような幻覚妄想状態をみる方もあります(これも抗てんかん薬の副作用であることがよくありますので注意を要します)
てんかんの患者さんは「脳とこころ」という、非常に難しいテーマを我々に対して投げかけてくれる存在です。
では実際にこうした問題が起こった場合、神経内科の先生に診てもらっている患者さんがどうなるかと言いますと、
患者さん
「先生、気分が良くなくて、不安でいたたまれなくて、仕事も手につかなくて・・・・」
神経内科の先生
「(うつ状態だなあ)そうですか、では精神科に良い先生がいますよ。一度受診されてはいかがですか?てんかん発作はありませんし、そちらの治療はこっちで続ければいいですから」
患者さん:
「神経内科の先生からうつ状態だって言われて、ご紹介頂いたのですが・・・」
精神科の先生
「(てんかんの患者さんかあ、最近あんまり診てないなあ)そうですか、ではてんかんの治療は神経内科の先生におまかせして、こちらは主に精神的な治療をやっていきましょう。とりあえず、うつ病のお薬が効果があればいいですねえ」
というように、精神科の先生がてんかんの方を全く診なくなる、という時代は絶対に来ないことがお分かりいただけるかと思います。問題は、この患者さんのうつ状態が、実は抗てんかん薬の副作用であった、といった場合です。根本的にはこれは抗てんかん薬を調整しないと、いくらうつ病の薬を飲んでも良くなりません。精神科医と神経内科医は、お互いの足りないところを補い合うことができている、とは言いにくいと思うのです。お互いの知識を共有する、かつてのNervenarztが今こそ必要だと感じます(もちろん、上の会話のようなことがいつも起こるわけではありませんが・・・)
若手の神経内科の先生の研修に長期の精神科での研修を、精神科の先生の研修に神経内科を加えることもよいかもしれません。「脳とこころ」について思索する期間は精神科医、神経内科医のお互いにとって、決して無駄ではないと思うのです。
2015年12月1日火曜日
Twitterはじめました。
東北大学のてんかん学講座教授である中里信和先生のお勧めで、てんかんについての正確な知識を、もっと広く、多くの方にお伝えするためにTwitterアカウントを当院も開設しました。基本的にはブログの内容を皆さんにお伝えしていきたいと思います。Twitterを利用されている方はどうぞよろしくお願い申し上げます。https://twitter.com/koidenaika
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