2014年9月17日水曜日

てんかんと失神

ずいぶん涼しくなりました。朝晩などは寒いと感じることもあります。みなさまも体調管理には十分お気を付けください。

最近、「意識がなくなった」ということでてんかんと診断され、通院していた方が相談に来られました。初めて意識をなくして以来、ずっとてんかんの薬を服用しているが、効果があるのかどうかわからないし、自分は本当にてんかんなのでしょうか?という御質問がありました。

てんかん全体でみると、60-70%の方は抗てんかん薬を服用していれば発作が起こらなくなると言われています。実際に薬を服用していても、何も起こらないことが治療効果であるために、薬の効果を実感するのが難しいことは事実です。この方もそういう方なのかなと最初は思いました。

しかし、よくお話をお伺いすると、「お風呂に入っていて、出ようとしたらちょっと立ちくらみみたいにくらっとしたので、ちょっと休んで、もう一回立ち上がって出ようとしたら意識がなくなって倒れた」とのことでした。さらに詳しく症状を聞くと、意識の消失時間はだいたい5-10秒、気がついたときには床に倒れていて、心臓がどきどきと激しく動悸を打っているのを感じたとおっしゃいます。また「もともと中学生ぐらいの頃は、長い時間立ってると倒れそうになることがあった」といったお話もありました。

こうしたお話は、てんかんによる意識障害よりも、起立性調節障害などによる失神の可能性を強く示唆する病歴です。脳波検査はこれまでも異常を指摘されたことがない、とのことでしたが、実際に異常はありませんでした。ないはずです。まず間違いなくてんかんではなく、失神だったのです。

よくてんかんは「倒れる」というイメージがありますが、いきなり倒れる発作だけしかない、というのはむしろ例外的です。またそうした発作の回数が少ない(あっても年単位)というのはてんかんよりも失神によくある病歴です。意識消失の時間が短いことは欠神発作などのてんかん発作でもあり得ますが、そうした発作では倒れることは少ないです。入浴後であるとか排尿後、飲酒後といった状況は失神が起こりやすい状況です。発作後に動悸や発汗が顕著にみられる、といった症状もてんかんよりも失神を強く示唆します。

てんかんは基本的に”症候群”と言われる、年齢や発作症状、原因、脳波検査結果などの集合体で診断がつくものです。そのどれか一つだけで、特に脳波検査結果だけで診断がつくようなものではありません。この患者さんの症状や病歴はてんかん症候群では矛盾するものになる、ということですね。

逆に失神の側から見ると、実は失神というのはよくけいれんを伴います。ある研究では90%の失神は何らかのけいれんを伴っていた、という話もあります(Lempert et,al. Syncope: A videometric analysis of 56 episodes of transient cerebral hypoxia Ann Neurol. 1994 Aug;36(2):233-7 )つまり「いきなり倒れて、けいれんしていました」という話だけでは、てんかんか失神かは判断できないということになります。

てんかんの診断で一番大切なのは問診です。これは何も恰好をつけているわけではなく、外来の、それも初診では問診しか診断のしようがないからです。脳波検査に異常がないてんかん、というのは珍しいことではありませんし、問診で診断がつくことはあっても、脳波検査のみで診断がつくことはありません。この点はあまりよく理解されていないのではないかと思います。

患者さんにはてんかんではない可能性が高いので、徐々に薬を減らして、中止を考えていきましょうと話しました。同じようなことはてんかんセンターでもよく経験しました。静岡てんかん・神経医療センターの患者さんについて調べてみたことがありますが、初診の2割弱はてんかんではない疾患がてんかんやてんかん疑いと診断されて受診に至っています。これはほとんどが問診の不足によるものや脳波の異常を見誤ったもの(異常がないものを異常と捉え、それがてんかんの診断根拠になった)によると考えられます。

私が問診をすると、脳波検査の前後にわたることもありますが、だいたい30分~
1時間ぐらいはかかります。もともとてんかんの診断に必要な問診というのはそうしたものなのですね。今後も問診の重要性などについては様々な場面で訴えていこうと思っています。

0 件のコメント:

コメントを投稿